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ガルシアへの書簡
(ビジネスマンの父より息子への30通の手紙より)


しばらく前にベストセラーになった、「ビジネスマンの父より息子への30通の手紙」という本があります。カナダ人の実業家であるキングスレイ・ウオードという人が書いた本です。彼は苦労して大学を卒業し、公認会計士として6年働いた後、化学事業を興して成功した人です。ビジネスマンとしての働きざかりに、2度にわたる心臓の大手術をうけ、死に直面した彼は、生きているうちに、自分のさまざまな経験から学んだ人生の知恵やビジネスのノウハウを息子に伝えたいと切実に願うようになりました。そして、父親としての愛情とビジネスマンとしての熱意をこめて息子に30通の手紙を書きました。この本は、その手紙を本にした実話です。

今日は、ある有名な人物の話しをしたいと思います。つぎの物語は、題名を「ガルシアへの書簡」といい、1889年に、エルバート・ハバードという人によって、わずか1時間で書き上げられた短い物語です。とても簡単な文章で書かれたものですが、そこには非常に重要な教訓が含まれていたため、早くも1913年には原本が4000万部印刷されていました。日露戦争中、前線に向かうロシアの兵士はみな、この「ガルシアへの書簡」を一部携えていました。日本軍は捕虜のロシア兵から没収したその本が、多量にあるのをみて、不審に思い、ただちに翻訳を試みましたが、後には勅命によって、日本軍の武官とを問わず、全員に一部ずつ与えられたそうです。この物語は以後各国の言葉に翻訳されています。

キューバがらみでいえば、私の記憶の地平線に、近日点の火星のように輝く1人の人物がいる。米西戦争が勃発したとき、当時のアメリカのマッキンレー大統領は、反乱軍の指導者であるガルシアと直ちに連絡をとる必要が生じた。ガルシアはキューバのどこかの山奥の要塞にいる。どこであるのかは誰も知らない。郵便や電報が届くはずもなかった。大統領は彼の協力を得なければならない。しかも早急に。
どうすればいいのか!
ある人が大統領に言った。「ガルシアを見つけられる人がいるとしたら、それはローワンという男でしょう。」
ローワンが呼ばれ、ガルシアへの書簡が託された。「ローワンという名の男」がどのようにしてその手紙を受けとり、油布の袋に入れて密封し、心臓の上にくくりつけ、4日後に夜陰乗じて小さなボートでキューバの海岸に上陸し、ジャングルに消え、敵国を徒歩で縦断し、ガルシアに書簡を届け、3週間後にこの島国のもう1端の海岸に現われたかを、ここで詳しく話すつもりはない。私が強調したいのは、マッキンレー大統領がローワンにガルシアへの書簡を渡したとき、「彼はどこにいるのですか?」と、たずねなかった事である。
マッキンレー大統領やガルシア将軍やローワン達はすでにこの世を去りました。
このたとえ話しを現代におきかえてみます。
あなたはいまオフィスにいて、6人の部下が近くにいる。その中の誰か一人を呼んで仕事を頼む。
  「百科事典で調べて、コレジョの生涯について簡単なメモを書いてくれないか。」
その部下は静かに「はい」と答えて、仕事にとりかかるだろうか?決してそうはしないだろう。きっと怪訝な顔をして、次のような質問を一つか二つするだろう。
どんな人ですか?
どの百科事典でしょう?
ビスマルクのことではありませんか?
チャーリーにさせてもいいんじゃあありませんか?
過去の人ですか?
お急ぎですか?
その本を持ってきますから、ご自分でお調べになりませんか?
なんでお知りになりたいのです?

あなたがその質問に答えて、その情報の求めかたや、あなたがそれを求める理由を説明したあと、その部下は十中八、九、他の部下の所に行って、コレジョを見つける手伝いをさせるだろう。それから、あなたの所に戻ってきて、そんな人物はいない、というだろう。もちろん私はこの賭には負けるかもしれないが、平均の法則に従えば、負けないはずである。
もしあなたが賢明なら、「補佐役」にコレジョの見出しはKではなく、Cであると、わざわざ説明したりしないで、優しい笑顔を見せて「もういい」といい、自分で調べるだろう。
現代の厳しいビジネス社会で、生き残るのは、ガルシアへの書簡を届けたローワンのような人物のようです。引き受けた命令を遂行するにあたり、自分で色々な情報を探し、計画を練り、実行する能力と意志を持つことが大切です。
      ガルシアへの書簡(ビジネスマンの父より息子への30通の手紙より)