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母の名を「サダコは生きていたい」より

 マリアナ群島のテニアン島を出発したB29爆撃機「エノラ・ゲイ」号は、8月5日の早朝、四国の南岸の上空を通って目的地ヒロシマへ向かっていた。離陸に先立ち、司令官スパッツ将軍は機長のティベッツ大佐に言った。「成功すれば君の名は永く我が国の歴史の本に名誉をもって記されるであろう。ところで君にこの爆撃機に命名する権利を与える。さあ、大声でその名前を言いたまえ」
  ティベッツ機長は若い乗組員たちの顔を見回してからこう答えた。「よろしければ、私はこの機に、私の母の名をとって、エノラ・ゲイと名づけたいと思います。」
  司令官は、機内で航空地図の一点を指示した。それは一つの都市、すなわちヒロシマであった。
  (カール・ブルクナー:オーストリアの高校用国語教科書1986年)